エレベータの恐怖

【注意】
 青少年の健全な育成を阻害する恐れのある性的表現が含まれている可能性があります。
 男性の視点で書かれているため、一部の女性には不快と感じる描写、
 あるいはセクシャルハラスメントと思われる記述が含まれている可能性があります。

私がエレベータに乗っている時、時折感じる恐怖について話そうと思う。

パラノイア」と一言でかたずけられてしまう類いのものではあるが、同様の恐怖を感じた経験のある男性諸氏には共感していただけるはずである。


想像してみて欲しい。


熱帯夜というほどではないが蒸し暑い夏の夜。

仕事で訪れたA社は雑居ビルの13階にある。

打ち合わせは無事終わり、あなたはひとりエレベータに乗っている。

1階フロアへ向かう下りのエレベータだ。

途中階で他所の会社の人が1人乗ってくる。

オーデコロンでも付けているのかフローラル系の香りがほのかに漂う。

見るとはなしに胸元をみると、上着はシャツ1枚しか着ていない。

うっすら乳首が透けて見える。


その人は、あなたの視線を感じたのか、一瞥をくれると、

「やめてください」

と、蚊の鳴くような声で言う。

あなたは少し侮辱されたような気持ちになる。

『そんなつもりは全然ないのに』


何か言い返そうとしたその時、

「キャーーーッ!」

と突然その人が叫けぶ。

先ほどとはうって変わって絶叫ともいえる大声で。

そして自分で自分のシャツを引き裂き始める。

あまりに唐突な展開にあなたはぼう然自失、なすすべもなく立ち尽くす。


ポーンという軽やかな音とともにエレベータが1階に着く。

開いた扉の向こうには外回りから帰ってきたとおぼしき2人のビジネスマン。

もはや半狂乱ともいえるその人はビジネスマンに駆け寄り、

「こ、この人が、私に乱暴を!」

と、いまだエレベータの中にいるあなたを指さす。


想像してみて欲しい。


ズタズタに引き裂かれたシャツで半裸になり、

あなたに乱暴されたと泣き叫ぶ中年男の姿を。